起業家に聞く!

「今後は、議員を辞めようと考えていて…」富山県議会議員が自ら引退宣言。その理由とは?

起業家に聞く!

富山県で働いている、あるいはいつかは働きたい方に向けて、最前線で活躍するリーダーや注目企業、注目の人を紹介し、富山での新しい働き方を提案する『富山人材新聞』。

今回登場するのは、富山県議会議員・社会起業家の平木柳太郎(ひらきりゅうたろう)さんです。

「富山で働き手を増やす」をテーマにビジネスと政治の2つの側面からアプローチしている平木さんに、詳しい活動内容に迫ってみたところ、飛び出したのはまさかの…「引退宣言」!?

〈聞き手=石原たいぞー(富山人材新聞編集長)〉

平木柳太郎さん
大学在学中の2005年から「富山を愛する男」と名乗り、地元富山の企業へ就職した後、2009年に独立。「社会起業家」として、居場所づくりや大人の学び場づくりなどコミュニティ・ビジネスを展開する。未来の富山で生活する子どもたちのために、行政と民間の相乗効果を高められるよう、起業家・議員として活動中。

24歳で起業し、28歳で政治の道へ。異色の経歴の背景とは?

平木さん
平木さん

インタビューの前に確認なんですけど…今日は標準語と富山弁、どちらで喋ったほうがいいですか?

たいぞー
たいぞー

え! むしろ喋り方を調整できるんですか!?

平木さん
平木さん

はい。ふだんは標準語で話しますが、地元で喋るときは富山弁で話しています。

標準語で話されると距離を感じる方も多いので、時と場合に合わせて使い分けています。これは…政治家スキルなのかも(笑)。

そんなスキルが(笑)。今日は標準語でお願いします。
たいぞー
たいぞー

平木さんは、24歳のときに起業、28歳で富山県議会の議員になられたとのことですが、その経緯を教えていただけますか?

平木さん
平木さん

私が起業家を目指すようになったのは、起業家向けの自己啓発セミナーがきっかけでした。

当時は大学で教育学を専攻していたので、将来は教員の道を考えていたんですよ。
でも、「教員ではない道も楽しそうだな」と思うようになり、セミナーに参加したことから「起業」という選択肢を意識するようになりましたね。

たいぞー
たいぞー

なるほど。

平木さん
平木さん

ただ、いずれにせよ、はじめは社会人として経験を積んでから起業をしようと考えていたので、ベンチャー企業・中小企業を中心に就職活動をはじめました。

もともとUターン就職をする気はなかったのですが、私が就職活動していた当時、富山県のUターンの募集がたくさんあって。お話を聞いていくうちに、さまざまなご縁をいただいたんです。

それで、富山県に帰って就職することを考えるようになりましたね。
そこで修行を積んでから、30歳で独立しようと。

たいぞー
たいぞー

でも平木さんは24歳で起業されていますよね。目標よりも随分と早いのでは?

平木さん
平木さん

そうですね。これは完全に…しくじりました(笑)。

まさかのしくじり先生…!?
平木さん
平木さん

当時は人材系の会社に就職して、就活生のサポートを行っていたんですけど「就職=ゴール」という感じで、就職後のフォローアップなどを行っていなかったんです。

でも、実際に就職活動をサポートした方から「実際の職場が想像と違った」とご相談をいただくことが多々あり、その方たちの力になりたいと思いました。

それで「フォローアップのセミナーを開きたい」と会社に上申したのですが、意見が全然通らなくて。当時の上司に「就職させておわりなんですか?」と噛みついていましたね。

たいぞー
たいぞー

それって…しくじりなんですか?

平木さん
平木さん

実は、それで早々に起業することになったんです(笑)。

そうなの!?
平木さん
平木さん

上司には何度も断られましたが、どうしても諦めきれなくて…。それで会社を辞めて、自分で始めることを決めました。


予定よりも大分前倒しの起業だったので、最初はかなり苦労しましたね。

フォローアップのセミナーをしつつ、富山県でコワーキングスペースを始めたんですけど…コワーキングスペースってどうしても場所代がかかるじゃないですか。それで貯金が全て敷金に消えてしまって(笑)。

昼は起業家として仕事をしながら、夜はアルバイトをして生活した時期もありました。でも、事業を続けていくうちに月会員が200人弱まで増えて、事業として成り立つようになったんです。

たいぞー
たいぞー

当時は、コワーキングスペース自体が少なかったころですよね。

平木さん
平木さん

そうなんです。少なくとも富山県にはひとつもなかったので、競合が生まれることもなく続いていきました。

すると28歳のときに、「議員を目指してみないか?」とお声がかかったんです。

「政治家」と「起業家」のパラレルワークの実態

たいぞー
たいぞー

「議員」になった当初は仕事に対してどんな印象を持ちましたか?

平木さん
平木さん

シンプルに「こんなに仕事してるんだ」という驚きはありましたね。政治家って…偉そうにしているだけじゃなかったです(笑)。


地方議員は、地元の方から本当に様々なご相談を受けるんですよ。
「除雪車が来なくて困っている」「このエリアの工事が全然進んでいない」といった突発的な相談もあれば「託児所を増やしてほしい」といった長期的なお悩みも聞きます。

たいぞー
たいぞー

さまざまな相談が来るんですね。

平木さん
平木さん

例えば、公務員出身の議員であれば理解が早いと思うんですけど、私はベンチャー出身の人間なので、最初のころは何がなんだかさっぱりわかりませんでした(笑)。

相談の内容が「県の問題」と「市の問題」がごちゃ混ぜになっていることもあるので、まずは話を聞いて情報を整理することから始まりました。

たいぞー
たいぞー

他にはどんなことを?

平木さん
平木さん

県の公式発言として、返答を聞ける機会である「議会」に向けて、質問書を作ったり、エビデンスを用意したりしています。ビジネスにおける「ピッチ」のようなものですね。

県議会議員の役割として、質問や提案をして実際に県に動いてもらうことが大切なので、念入りに準備をしています。

たいぞー
たいぞー

なるほど…。でもその傍ら、起業家としても活動されているんですよね?

平木さん
平木さん

議員になる前は先ほど挙げたコワーキングスペースのような「ビジネス領域」に注力していましたが、最近は「社会貢献の領域」が多いです。

今携わっている主な仕事は、富山県の舟橋村にある『一般社団法人常願寺川公園スポーツクラブ』の経営です。

サッカー、フレッシュテニス、陸上、馬術などのスクールを行うほか、人工芝のサッカーグラウンドを貸し出したりしています。

部活動の地域移行として「部活動の先生を学校の先生から切り離す」という活動を文部科学省が推奨しているのですが、その受け皿となるスポーツクラブを目指しています。

一般社団法人常願寺川公園スポーツクラブ
たいぞー
たいぞー

そんなことまで!

平木さん
平木さん

そのほかにも、法人として舟橋村と協議していて、サッカー場約一面分の土地の使い方を議論しています。

舟橋村周辺は病院がないので医療施設や防災施設なども検討しています。村が活性化するような施設をつくりたいんですよね。ちょっとした都市開発のような仕事をしています。

たいぞー
たいぞー

今さらなんですけど…議員さんって副業できるんですね。お堅い仕事ですし、副業NGかと思っていました。

平木さん
平木さん

私たち地方議員は「非常勤公務員」という扱いなので、副業が認められているんです。

もちろん、県の予算を使った公共事業に関する仕事を請け負っている会社の役員はできません。県の道路工事を担当している建設会社の役員などはNGですね。

たいぞー
たいぞー

ちなみに、副業されている議員さんはどのくらいいらっしゃるんですか?

平木さん
平木さん

富山県議会の議員は、ちょうど半数ほどが副業をしていて、私みたいに何かしらの役職に就いて、ビジネスに関わっていますよ。

たいぞー
たいぞー

意外と多い…!

平木さん
平木さん

皆さんがご存知の通り、議員は4年に1回選挙があります。もし落選してしまうと無職になってしまうので、両輪をまわすことは大切だと思いますね。

もちろん、議員として活動しながら他の活動を行う大変さはありますが、議会の時期以外はフリーランスのような動きも可能なので、比較的自由に動いています。

議員自ら引退宣言!?「富山を愛する男」の展望

たいぞー
たいぞー

平木さんは議員と起業家の二足の草鞋を履いていますが、共通して大切にしていることはありますか?

平木さん
平木さん

私はライフワークとして、「富山で働き手を増やす」というテーマを掲げています。

議員としては、富山県のUターン情報センターをアクセスのよい場所に移転させたり、移住者への情報提供場『くらし・しごと支援センター』に、キャリア支援の窓口をつくったりと、Uターン希望者に向けた「情報の整備」を議会に提案しました。

また、個人の活動では、キャリアのあるUターン希望者と富山県の企業の「マッチング」を行いました。

20代は県外で働いてきた人たちも、30歳くらいになると「地元に帰りたい」という方が多いのですが、その人たちが富山県で適切な仕事やポジションに就けるか…というと、そもそもそういう募集を見つけることが難しいんです。そこで、富山県の企業にスキルをもった転職希望者を紹介することを行いましたね。

たいぞー
たいぞー

本当にいろいろな活動をされているんですね。

平木さん
平木さん

そうなんです。それで今後は、議員を辞めようと考えていて…。

!?
平木さん
平木さん

2023年の4月までは議員をするんですけど、次回の選挙には出馬しないことを決めました。この決断も新しいチャレンジなんです。

議員が辞める時って体調不良や不祥事、落選などのネガティブな理由が多いじゃないですか。なので「そうではない辞め方」をしてもいいかなと思っているんです。

これからは、富山県を盛り上げてくれる「新しい議員」を発掘して、その方のサポートに注力したいと考えています。

そして今後は、キャリアの選択肢のひとつとして「議員」という道を選んでもらえるようになったら嬉しいですね。

たいぞー
たいぞー

キャリアの選択肢のひとつとしての「議員」ですか?

平木さん
平木さん

はい。議員という選択肢をもっと身近なものにしたいと思っています。
ベンチャー企業に就職もいいけど…「出馬!」みたいな(笑)。

発想がユニークで素敵です。
平木さん
平木さん

富山県をさらによくするためには、さまざまなキャリアを持った方々の力が必要なんです。

議員という仕事は、皆さんが考えている以上にインパクトのある仕事です。今後は「富山のために何かしたい!」と考えている方のサポートを通じて、富山県をさらに盛り上げていきたいと思っています。

たいぞー
たいぞー

なるほど…。ちなみに平木さんがそこまで富山県を好きな理由は何ですか?

平木さん
平木さん

え、知らん(笑)。

たいぞー
たいぞー

えー!?

平木さん
平木さん

突き詰めたら「知らん!」というスタンスに行きつきました(笑)。

私はこれまで富山県議会議員を10年間も務めて、富山県をよくするために時間を費やしてきました。議員の仕事って、本当に富山県が好きじゃないとできないと思うんです。

だから、「好きな理由はもういらない」と思ったんですよね。

とにかく、私は富山県が大好きなので、これからも富山県を盛り上げていきます!

たいぞー
たいぞー

さらなるご活躍を陰ながら応援しています!

平木さん、ありがとうございました!

今回取材前にご挨拶したところ、なんとスタッフにお土産を持ってきていただき…細やかなお心遣いを感じました。さらなるご発展を陰ながらお祈りしております!

取材=石原 たいぞー(富山人材新聞編集長)(@taizojp
文章=まあや(@maaya_minimal
編集=いしかわ ゆき(@milkprincess17
撮影=ゆーと(@yuto_higohashi
アイキャッチデザイン=井上初音

タイトルとURLをコピーしました