今回は、旬の地魚と富山の日本酒をリーズナブルに楽しめる、予約必須の人気店「吟魚」をはじめ、富山で話題の居酒屋4店舗を経営する、小山崇さんにお話を伺いました。
「富山の幸はなぜ美味しいのか?」といった富山の魅力のみならず、独自の営業スタイルを持つ「吟魚」がお客様からも従業員からも愛される秘訣についても語っていただきました。
小山崇(「吟魚」「吟(ぎん)チロリ」「おぎん。」店長/代表) 北海道出身。法政大学を卒業後、東京の老舗魚居酒屋「魚真」での修行を経て、2014年に居酒屋「吟魚」を個人創業。2016年に「サカナサケ」として法人化。四季に合わせた旬の地魚と富山の日本酒を中心とした酒類をリーズナブルに楽しめる居酒屋「吟魚」をはじめとし、富山市で居酒屋4店舗を経営する。いずれも予約必須の人気店で、口コミ情報サイト「食べログ」で常に上位にランクインしている。従業員(アルバイト含む)は約60人。 |
富山の魚には“四季”がある。他県に比べて海の幸が美味しい理由
富山にいると、誰かをつい連れていきたくなるのが居酒屋「吟魚」なんですよ。お財布にやさしいうえ、新鮮な魚介類に豊富な種類のお酒がたまらなくて…! 今回はそんな「吟魚」の人気の秘訣も含め、お話をお伺いできればと思います。
まず、小山さんが富山で居酒屋を開こうと思った経緯を教えてもらえますか?
もともと実家が北海道で寿司屋をしていたこともあり、僕自身も大学卒業後に東京の海鮮居酒屋で修行をしていました。そして、結婚してから自分のお店を持とうと思ったときには、北海道・富山・東京のいずれかでお店をやろうと思っていたんです。
悩んでいたとき、決め手になったのは「富山で四季豊かな幸に触れたこと」でした。
東京といえば「江戸前寿司」、北海道は「海の幸」といったイメージがありますが、富山には何か特徴があるんでしょうか?
富山の特徴は、「魚に四季がある」ことなんです。春はホタルイカ、白海老、夏はバイ貝、ボタン海老、岩牡蠣、秋から紅ズワイガニ、冬は白子、牡蠣、ブリなど、季節によってさまざまな海の幸が楽しめます。
本当に四季折々の海の幸があるんですね…!
いつでも同じものが捕れるわけではないので、あらゆるものをさばく・調理することができないといけないという、調理人にとってもまさに「腕試しの場」だと思いました。そのぶん大変ではありますが(笑)。
なるほど。なぜ富山だといろんな魚が捕れるんですか?
それには、富山の地形が大きく影響しています。富山湾は「天然のいけす」と言われているのですが、まず、富山近海は日本海側のなかでも大陸棚が狭くて海が深く、魚が住みやすい。
さらに、標高3000m級の峰々が連なる立山連峰からの雪解け水が1年中海に注ぎ込まれることによって、つねに新鮮な酸素と栄養が補給されるため、海のミネラルがとても豊富でさまざまな魚が育つ環境が整っているんです。
そして、富山の海の幸には四季があるだけでなく、味もとても美味しいんです。日本海の複雑な潮流や激しい波浪によって育まれた魚は身が引き締まり、ほどよく脂がのっています。
近隣の県で収穫された魚介類と比較してみると、匂いから味までまったく異なる。富山で捕れたかどうかが見て分かるくらいです。
また、富山は港と街との距離が近いため、鮮度が飛び抜けていいことも大きな特徴。早朝に水揚げされ、新鮮なまま出荷されるので、富山では活きのいい魚を「その日のうちに」食べることができます。
客単価4,000円で新鮮な地魚と極上のお酒が楽しめるのはなぜ?
たしかに、富山のスーパーで売られている刺身も、とても美味しいですよね!
そうなんです。それなのに、一般的な富山の居酒屋では提供するすべての魚が地物ではないことも多いんです。
地のものは季節ごとに扱うものが違うので、頻繁にメニューを変更しなくてはならなかったり、あるいはメニューを固定することで高い値段で仕入れないといけなかったりするから。
でも、僕はおいしい旬のものをどうしてもお客さんに食べてもらいたかった。
そこで、メニューを固定せずその日に揚がる魚を調理することにしました。そうすることで、高い値段で仕入れる必要がなくなるので、結果として客単価は4,000円ほどで地魚と日本酒を楽しめるようなお店を作ることができました。
その日揚がったものでメニューを作る、というのはなかなか大変な気もするのですが…
実は、この居酒屋をオープンする前にホタルイカの漁業を手伝うなど、いろいろな食材を調理する機会を作っていました。
刺し身でなくても、昆布締めにしたりカニクリームコロッケにしたり…素材の味を楽しめるレパートリーを増やしていくことで、どんな魚が揚がってもおいしく調理できる術が身についたんですよ。
なるほど…!レパートリーを増やすことで、どんな種類の魚介にも対応できるんですね。そして、「吟魚」といえば、魚介類だけではなく日本酒も美味しいことで有名ですよね。
うちで特に人気なのは、JALのファーストクラスなどでも提供される富美菊酒造(羽根屋)の日本酒ですね。
実は、この居酒屋をオープンする前にこちらで修行させてもらっていたこともあり、表で流通していないものも、ご縁つながりで持ってきてもらったりと、酒も食事も美味しさに妥協しないように意識していました。
お酒へのこだわりもすごい…! 予約困難な人気店になるのも納得です。
飲食業界にも働き方改革を。スタッフや顧客に愛される職場づくりの秘訣
ところで、人気店であることの理由は「美味しい酒や食べ物」だけではなく「スタッフの接客や雰囲気の良さ」もあるように感じます。
従業員同士の仲の良さや、お客様へのフレンドリーさが印象的で、毎回行くたびに「また来たい!」と思うのですが、働き方について何か工夫していることはありますか?
飲食業界は、業界全体として、長時間労働が常態化する傾向にあります。そんななかでも、うちは週休2日を取り入れたり、積極的に声がけをしたりと楽しく働けることをモットーに職場づくりをしています。
職場は家族よりも過ごす時間が長くなります。だからこそ仲良く仕事ができることが重要だとも考えており、BBQをはじめとする社内イベントなどは定期的に行っていますね。
そんなことまで…!
僕はもともと職場では「怖い」「ストイック」という印象を抱かれていたのですが、自分の子どもが生まれたことをきっかけに、子どもたちの世代に楽しんで働けるようになってほしいと思うようになりました。そこで、まずは自分がそういう環境を作ってみようと思ったんです。
まさに「言うは易く行うは難し」だと思うのですが、実現のためにどのような工夫をしているんでしょうか?
まず、通常の居酒屋より多くのスタッフを採用しています。3店舗で社員が15名・アルバイトが50名なので、かなり潤沢だと思います。ただしそのぶん、採用も集客も一切広告は出さず、原価に乗らないようにしています。
宣伝広告に利用しているのはFacebookとInstagramのみ。お金のかからないプロモーションに限定することで、経費を削減しています。これらを通じ、一般的な飲食店では30%程度とされる原価率を44%まで高めることができました。
また、席数を通常の居酒屋より少なく、40〜50席まで絞っていることも、回りやすい理由のひとつかもしれません。
また、「新しいチャレンジをする」というのも大切にしていることのひとつです。特にコロナ禍においては、飲食業では出来ないことも多く、歯痒い気持ちもありました。
でも、「とにかくできることをやろう」と、持ち帰りのオードブルを販売したり、地元漁業者から紅ズワイガニ100杯を毎日仕入れたり、スペシャリティコーヒー「ギンギョ・コーヒー」を作ってみたりと、メニューを工夫するほか、他店舗から解雇された料理人を社員として受け入れたり、営業時間短縮やランチ提供をするなど、営業形態も試行錯誤していきました。
このような取り組みをしていたことからか、富山市内の創業まもない優れた成長企業を顕彰する「富山ヤングカンパニー大賞(※)」を受賞しました。
今後も創意工夫しながら職場づくりをしていきたいですね。
本日は「吟魚」の人気の秘訣、そしてお客さんだけではなく従業員まで幸せになる取り組みについて教えていただき、ありがとうございました!
最後に…
「吟魚」で働きたいという方に求人のお知らせです。気になる方はぜひチェックしてみてください!
【社員】月給30万円〜 週休2日
【アルバイト】経験者:時給1100円〜 未経験者:時給1000円〜
【福利厚生】週休2日、社内交流(BBQ)
【問い合わせ先はこちら】https://www.instagram.com/forza.gingyo/
取材=石原 たいぞー(富山人材新聞編集長)(@taizojp)
文章=高尾 有沙(@arisa_takao)
編集=いしかわ ゆき(@milkprincess17)
デザイン=ゆーと(@yuto_higohashi)