起業家に聞く!

厳しい職人の世界で“アメが10割”⁉ ︎富山の老舗鋳物メーカー・能作がつくる新しい組織のカタチ

起業家に聞く!

富山県で働いている、あるいはいつかは働きたい方に向けて、最前線で活躍するリーダーや注目企業、注目の人を紹介し、富山での新しい働き方を提案する『富山人材新聞』。

今回登場するのは、富山県高岡市で1916年に創業した鋳物メーカー・株式会社能作 代表取締役社長能作千春さんです。

高岡で400年伝わる鋳造技術を使い、高純度の錫(すず)や真鍮などの金属素材を用いた製品を展開する、株式会社能作(のうさく)。製造業はもちろん、自社工場の見学ツアーや結婚10周年をお祝いする「錫婚式(すずこんしき)」のプロデュースなど、事業内容は多岐にわたります。

かつては3K(きつい・汚い・危険)と言われることの多かった、ものづくりの世界。しかし、能作では一風変わった取り組みをしているとのこと!

今回は、能作がつくる新しい組織のカタチについて迫ります。

〈聞き手=石原たいぞー(富山人材新聞編集長)〉

能作 千春(株式会社能作 代表取締役社長)
高岡市出身。2007年に神戸市内のアパレル関連会社で通販誌の編集に携わった後、2011年に株式会社能作に入社。2016年に取締役に就任、新社屋移転に向けて産業観光部長として産業観光事業の立ち上げに携わる。2018年10月に専務取締役に就任し、2023年3月に代表取締役社長に就任。

年間13万人が訪れる社屋!︎「産業観光」への想い

たいぞー
たいぞー

富山県の老舗メーカーといえば能作さん!まずは簡単に事業についてお聞きしてもよろしいですか?

千春さん
千春さん

能作は、1916年に創業し、2023年で107年目になりました。私の一族で代々受け継がれていて、前代表は私の父・能作克治です。

もともとは仏具や茶道具器など、高岡銅器の伝統工芸品を中心に製造していたのですが、私の父の代から、お皿やインテリア雑貨などの、現代のライフスタイルに密着した製品を作りはじめました。

平面からカゴの形へと変化する「KAGO」シリーズ
千春さん
千春さん

錫100%のやわらかさを生かした商品をはじめ、素材とデザインにこだわってものづくりをしています。

たいぞー
たいぞー

製品はもちろんですが…社屋もステキですよね!

千春さん
千春さん

ありがとうございます。社屋は2017年に移転をして、製品の製造過程を知っていただけるように工場見学の環境も整えました。

4,000坪の敷地に、工場、オフィス、カフェ、ショップ、体験工房を併設していて、今では年間13万人の方が足を運んでくださっています。

イベントの日は1日2,000人ほど来場するとのこと。もはやテーマパーク
たいぞー
たいぞー

それはすごいですね! なぜ移転を決めたんですか?

千春さん
千春さん

理由は2つあります。ひとつは、職人の増加によるキャパシティの問題を解決するため、もうひとつは産業観光を加速させるためです。


とくに、「産業観光」に対しては、強い想いがあって…。

たいぞー
たいぞー

といいますと?

千春さん
千春さん

じつは、父が入社して間もないころ、小学校高学年のお子さまがいらっしゃる親御さまから「工場見学をしたい」とお問い合わせをいただき、実際にお越しになったことがあるんです。


そのときに親御さまが、「よく見なさいね。ちゃんと勉強しないと、こんな仕事をすることになるのよ」とお子さまにお話しされていたそうで…その言葉が父の心に強く残りました。

たいぞー
たいぞー

そんなお言葉が…。

千春さん
千春さん

でもそれは、私たち作り手が「産業のすばらしさを伝えきれていないこと」が原因だと思いました。だからこそ、弊社では「知っていただくために、まずは伝える」ことをとても大切にしています。


工場見学の環境を整備したのも、ものづくりの素晴らしさを皆さまに知っていただき、職人の地位を高めていきたいと考えているからなんです。

たいぞー
たいぞー

たしかに…。工場と聞くと「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージがあります。

千春さん
千春さん

そうですよね。私も小さいころから父が職人として、過酷な現場で働く姿を見てきているので、その親御さまのお気持ちは理解できます。


でも今は、環境が変化して、職人に対するイメージも少しずつ変化してきました。

弊社の職人の平均年齢30代前半と若いんです。うれしいことに、中には工場見学に来たことをきっかけに、「職人になりたい」と応募してくれた人もいます。

わ、若い…!
たいぞー
たいぞー

でも、「年間13万人が来場する工場」となると、さすがに戸惑われた職人さんもいらっしゃったのでは…?

千春さん
千春さん

たしかに、今でこそ弊社では「自分の目の前をお客さまが歩く」という環境が当たり前ですが、当初は半数の職人は変化に戸惑っていました。



でも、1年経つとその環境が当たり前になり、5年経った今では、見られていない環境のほうが違和感のある状態になりました(笑)。
それに、産業観光は、職人にとってもメリットが大きいんです。

たいぞー
たいぞー

「職人側のメリット」とは?

千春さん
千春さん

お客さまとの距離の近さです。
通常の工場見学は、専任のスタッフが案内しますが、イベント時には職人が対応することもあります。

例えば、夏休みのお子様向けの見学プランなどで、「どうして職人さんになったんですか?」という質問に対して、自分の言葉で答えることは、彼らにとって貴重な機会です。

お客さまからいただいたお手紙や絵は、食堂の壁一面に貼っているとのこと
千春さん
千春さん

物を作って売るだけでなく、その先にいるお客さまとの接点をつくることができる点は、産業観光の魅力だと思っています。

社員教育、評価制度がない⁉ ︎能作の一風変わった組織づくり

たいぞー
たいぞー

先ほど、職人さんの平均年齢が「30代前半」とお話しされていましたが、どのような方が働いているんですか?

千春さん
千春さん

経歴を問わずに採用しているので、さまざまなキャリアの人が職人として働いています。元美容師や元アパレル従業員、元経理をしていた人も。

たいぞー
たいぞー

多様ですね!

千春さん
千春さん

だから面白いんですよね。


弊社では「錫婚式(すずこんしき)」という、結婚10周年の節目をお祝いするイベントも手がけているのですが、「美容師が手配できない」というピンチにも対応できるので心強いです。

たいぞー
たいぞー

でも、さまざまなメンバーがいると、社員教育も大変なのでは?

千春さん
千春さん

じつは、能作では、社員教育はしていないんです。


誰かに「こうしろ」と指示されるよりも、自主的に行動して結果を出した方が楽しいじゃないですか。

なので、店舗の責任者にも「売上ノルマ」などは一切課していないんですよ。

たいぞー
たいぞー

え! 店舗こそ「数字」が大切ですよね…?

千春さん
千春さん

たしかに売上は大切ですが、それ以上に弊社では「お客さまに知っていただくこと」を重視しています。


売るじゃなくて、伝える。その結果、売り上げがついてくると思っているので、スタッフには「伝えること」に重きを置いて考えてもらっていますね。

ただ、今は170名もの従業員がいて組織も大きくなりました。企業の成長にあわせて変化が必要なので、社員教育は検討している最中です。

たいぞー
たいぞー

なるほど。変化のフェーズなんですね。

千春さん
千春さん

そうですね。
ただひとつ、昔から変わらないのは、従業員を厳しく指導しない「アメ10割」の方針です。

たいぞー
たいぞー

アメが10割⁉ ︎ムチは「0」ですか?

千春さん
千春さん

はい(笑)。やはり、私も父も「仕事は楽しいものだ」という想いが強いので、厳しく指導をして従業員の主体性を損ないたくはないんです。

能作の製品のファンであったという応募者が多いので、能作に対して愛のある人が集まった組織になっています。

だからこそ、厳しく指導をしなくても組織として成り立っているのかもしれません。

たいぞー
たいぞー

「社員が自発的に仕事に取り組み、育っていく環境」はどのように作られているんですか?

千春さん
千春さん

採用時点でのカルチャーフィットが大きいと思います。

応募いただく際も、ありがたいことにブランドへの愛に満ちた方からご連絡をいただくことが多いですし、入社してから「印象が違った」という方はほとんどいないですね。

たいぞー
たいぞー

「入社してから知ってもらう」ではなく「知っていただいてから入社してもらう」が大切なんですね。

千春さん
千春さん

そうですね。それでいうと、「工場見学」の影響は大きいと思います。


以前、工場見学に来てくださった親御さまからメールをいただいたのですが、小学2年生の娘さまが「将来の夢は能作で働くこと」「どうしたら能作で働けるようになる?」とおっしゃっているそうで。

それで、「子どもが入社するまでに、準備すべきことがあれば教えてください」とご連絡をいただいたこともありました。

たいぞー
たいぞー

なんて素敵な話なんだ…!

千春さん
千春さん

そのメールをいただいた瞬間、本当に心があたたまりましたね。


自分たちの想いを伝えることで、ファンが増えて仲間が集まる。こうした形で弊社に関わりたいと言ってくださる人が増えて、本当に嬉しいです。

物や体験を通して、人々の節目に寄り添う企業に

たいぞー
たいぞー

製造業や工場見学など、事業内容が多岐にわたる能作さん。今後はどのような展開を計画されていますか?

千春さん
千春さん

まずは、国内店舗の拡大を考えています。


店舗は「物を売る場所」というより、伝統や技術、そして富山の魅力を「伝える場所」だと捉えているので、認知度の低い地域との繋がりを作るためにも店舗数を増やしていきたいです。

とくに弊社の商品は、見た目や質感、重量などにこだわって作っているので、オンラインでは伝えきれない部分を実店舗でお伝えしていきます。

また国内だけでなく、海外へのアプローチも進めています。

たいぞー
たいぞー

海外ですか!

千春さん
千春さん

日本に訪れる外国の方に向けて、旅行プランを絡めたインバウンド施策を検討しているほか、中華圏にターゲットを絞り、現地での販売やアウトバウンドの計画を練っています。

2022年4月には台湾・台北にブランドコンセプトストアをオープン 画像ⓒYUCHEN CHAO PHOTOGRAPHY
千春さん
千春さん

プロダクト以外の事業では「錫婚式(すずこんしき)」をさらに広めていきたいですね。

たいぞー
たいぞー

「錫婚式」…?

千春さん
千春さん

結婚10周年をお祝いする式のことです。

結婚から25周年の「銀婚式」や、結婚から50周年の「金婚式」はご存知かもしれませんが、結婚10周年は弊社が扱っている「錫」の名前が用いられています。


「錫のようにやわらかく、光り輝き続ける夫婦関係でいられますように」という意味が込められている記念日なんです。

たいぞー
たいぞー

素敵な記念日ですね!

千春さん
千春さん

そうなんです!それに、結婚10年はご家族にとって大切な年でもあります。

じつは、結婚10年を境に、女性の結婚満足度が一気に下がるとも言われているようでして…。

たいぞー
たいぞー

そ、そうなんですか…!?

千春さん
千春さん

だから、錫婚式を機にご夫婦の絆をさらに高めることができたら、結果的に離婚率の低下や少子化対策に繋がると思うんです。なので、私は「錫婚式を当たり前の文化に」という使命感をもって取り組んでいます!


最近は、結婚式を挙げない方も増えてきているので、錫婚式が、新しいお祝いの選択肢になったら嬉しいですね。現在は、富山県と北海道で錫婚式のプロデュースを行っているのですが、今年は他の地域でも開催できるように進めています。

錫婚式。覚えておきます!
千春さん
千春さん

また、錫婚式と絡めて、いつか「錫のジュエリーブランド」も作りたいと考えています。

じつは、私が今しているリングは、私が錫婚式を挙げたときに、弊社の職人がサプライズで作ってくれたリングなんです。

たいぞー
たいぞー

素敵です…!

千春さん
千春さん

結婚10周年を家族でお祝いして、それがリングとしてカタチに残る。その体験が私自身とても心に残っているので、ぜひ皆さまにも体験していただきたいと思っています。


今度もさまざまなプロダクトやサービスを通して、お客さまの節目に寄り添えるような企業を目指して、事業を展開していきます!

能作さんの「錫婚式」の詳細はこちら!

結婚10周年の節目をお祝いする「錫婚式」 。

朽ちにくく錆びにくい。美しさと柔軟性を兼ね揃え、縁起が良いとされる錫は、永く美しい結婚生活を誓うのにふさわしい金属です。

能作さんプレゼンツの錫婚式にご興味のある方は、ぜひこちらをご覧ください!

結婚10周年の錫婚式 | 株式会社 能作
富山県高岡市で1916年に創業した鋳物メーカー 仏具、花器、茶道具から錫テーブルウェア、ホームアクセサリーまで

取材=石原 たいぞー(富山人材新聞編集長)(@taizojp)
文章=まあや(@maaya_minimal)
編集=いしかわ ゆき(@milkprincess17
アイキャッチデザイン=井上初音

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