富山県で働いている、あるいはいつかは働きたい方に向けて、最前線で活躍するリーダーや注目企業を紹介し、富山での新しい働き方を提案する『富山人材新聞』。
今回は、富山県に生まれ、現在富山県成長戦略会議の委員を務める、レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役会長兼社長の藤野英人さんに、富山の未来についてお話を聞きました!
富山に住んでいる、働いている方はもちろんのこと、今後富山で働く、住む、仕事をする、起業するなどに興味がある方、ぜひ読んでみてください。
レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役 会長兼社長 最高投資責任者(CIO) 藤野 英人 富山県出身の投資家、ファンドマネージャー、経営者。国内・外資大手資産運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス創業。「ひふみ」シリーズの最高投資責任者。投資啓発活動にも注力し、JPXアカデミーフェロー、東京理科大学上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師、叡啓大学客員教授を務める。一般社団法人投資信託協会理事。 富山県では富山成長戦略会議の委員も務めるかたわら、富山県朝日町に古民家を購入し、地域活性を実践している。 |
投資家の藤野さん。そもそもなぜ富山に?
藤野さんは国内外の資産運用会社経て現在は経営者・ファンドマネージャーとしてご活躍しながらも、富山成長戦略会議の委員を務められていますよね。失礼ですが、そんなすごい方がなぜ今富山に…!?
もともと、母方の実家が富山だったんです。父が転勤族で、その後もいろいろなところに引っ越しましたが、やはり富山に戻ってくると、「自分の戻る場所・帰る場所だな」という感覚を持ちますね。
盆暮れになると毎年富山に来て、せっせと宿題を終わらせたものです(笑)。
富山県は食文化や自然が特に優れているので、夏なら海水浴、冬ならスキー、そして立山や室堂でキャンプをしたりしました。
東京に行ってからも、私には地方から日本を元気にしたいという思いがありました。だからこそ、当社の投資信託「ひふみ」は、成長している地方企業にも投資をしています。ただ、こうした活動と並行して、自分自身がどこかの地域に入るべきだとも感じていました。
そんなとき、朝日町の建築家の方に声を掛けていただき、古民家を購入することになったんです。
そんな経緯があったんですね…! 実際に富山で過ごしてみてどうですか?
本当に素敵なところだと思います。朝日町では、蛇口から立山連峰の湧水が出てきたり、食べ物も新鮮でおいしい。自然災害が少なく、海の幸・山の幸が豊富ですね。
あと、コンパクトでどこに行くにもアクセスがいいのも魅力。富山県は富山平野が大きくて、県のなかを端から端まで2時間ほどで移動できるから、山にも海にもすぐに行けます。新幹線の駅も3つあり、どこからでも新幹線の駅までの移動距離が20分以内なのも便利ですね。
ただ、それと同時に富山の人たちが富山を過小評価していることにも気付きました。とても自然豊かで東京からのアクセスも良いのに、誰もが「ここには何もない」と思い込んでいます。
これらの魅力を県外の方に伝えるとたいてい驚かれるのですが、富山県の人はあまりそのことを特別なことだと思っていない。そんな芯から質実剛健で謙虚な県民性も、魅力的ではあるのですが、ちょっともったいないとも思います。本当は売りどころがたくさんあるのに。
あと、富山は男女ともにバリバリ働いている人が多い地域でもあるんです。2017年の共働き率は富山県が57.1%で全国3位(※)。こうした状況は「北陸モデル」と呼ばれ、地方創生担当相らが視察に訪れるなど関心を集めているくらい。
(※「平成 29 年就業構造基本調査」より抜粋)
え! そうなんですか!? バリバリ働く人が多いんだなぁ。
ただ、富山県は女性の人口純移動率も高くて、特に15~19歳から20~24歳の転出超過が大きいです。大学進学や就職のタイミングで県外に出ているんですよね。
僕が思うに、富山は何でもこなせる女性が多いので、富山に居ることがしんどくなってしまうのではないかと思います。仕事もやって、介護もして、生んで育てて…となると、そういうことが当たり前にできる女性を目の当たりにすることが多いのだろうなと。
実際には、家でゴロゴロしていたい女性もいるはずなのに、そういう「普通=バリバリ働きながら育児・介護をこなすこと」から外れようとすると、富山に居づらくなってしまう。「何で結婚しないのか」「何で子どもを産まないのか」とまわりが介入してきちゃうから。
まわりがすごすぎるあまり、居心地の悪さを感じてしまう…と。
だからこそ、女性が現在担いでいる重荷を減らすべきだと思っています。まずは、今は男女共同参画社会で、女性の問題は男性の問題でもあると認識すること。家事、出産、育児、介護などにおいて、どの荷物を下ろして、何を分担するのかを今一度考えるときだと思っています。
そこで僕たちが「富山県成長戦略会議」のなかで、新しい概念として出したのが「ウェルビーイング」。身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念です。
「ウェルビーイング」で富山の「当たり前」を変えていく
えーっと…すみません、ウェルビーイング…って何ですか? あまり聞き慣れない言葉ですが…
聞き慣れないでしょ?(笑)富山の人には「知らんちゃあ」と言われてしまうんだけど、私は逆によく知っている言葉でもダメだと思ったんです。
たとえば、「富山のために成長戦略を考えよう!」という言葉を使うと「いや、今のままでいいよ」と言われてしまうので、まずは「ウェルビーイング」を浸透させていきたい。
今はまだ知らない言葉かもしれないけど、これからの世の中では一般用語になるんだ、ということを伝えていけば、時が経つにつれて普通の言葉になっていくと信じています。
それに対して「ウェルビーイング」というのは幅広い概念で、健康・時間・人間関係・趣味・食べ物など、あらゆることが「快適な状態」のことです。これを前提にすると、お金そのものが目的にはならない。そういう考え方をすることで、社会の「当たり前」が変わると思ったんです。
「ウェルビーイング」を前面に出すことで、社会の「当たり前」はどのように変わるのでしょうか?
「幸せとは、必ずしもバリバリ働くことではない」という前提があるからこそ、男女ともにそこそこ働いて、世帯年収がそこそこあって、持ち家があって、ローンがない…という経済的な豊かさを最低限持ちつつも、精神的な自由やキャリアの選択肢が多岐にわたる社会が実現できると思っています。
それこそ、仕事も子育てもバリバリやる人もいていいし、そうでない人もいていい。自分の人生を謳歌できる、多様な人を包含して受け止める社会になっていく、そういう未来を描いています。
そうなることで、すべての人が干渉しすぎず、安心できる社会になっていくと思います。
「干渉しすぎない」という言葉は一見冷たく聞こえますが、やわらかい社会を作っていくうえで必要なことなんですね。
そう。地方は固定観念が強いというイメージあるからこそ、「地方に行きたくない」と言われてしまうんですよね。だから、「いろいろな生き方があってもいい」「プライベートには干渉しすぎない」というのを共通認識として伝えていかないといけない。
そのために、この大目的である「ウェルビーイング」という概念の正しい認識を広めて、ステレオタイプを手放し、社会全体として同じ方向を向いていきたいなと思っています。「誰にとっても幸せな状態を目指す」ということに反対する人はいないはずなので、それを妨げる要因を取り除いていけたら。
地方創生に必要なことは「富山だけ」に特化しない発信
藤野さんは「富山県成長戦略会議」への参画も含め、地方創生にまつわる発信を積極的にされていますが、実際に地方創生に必要なことはどんなことだと思いますか?
まず、発信にまつわることで言えば、「ざわざわを創る」というのを意識しています。先日、『現代ビジネスオンライン』で富山に関することをお話したのですが、その反響がすごく大きかったんですよ。
いきなり地方創生について語るよりも、「いま『富山』ですごいことが起きている」という語り口のほうが面白そうでしょ?
たしかに…!
東京にずっと住んでいる人以外は、「誰もが創生したい場所がある」はずです。「地方創生」という言葉に想いを持っていたり、「何かしたい」と思っている人はたくさんいるだろうなと。
そういう人たちを巻き込むためにも、「富山」というよりも、全国の地方での参考になるような情報発信を大切にしています。普通の人であれば、富山で何が起きているかなんて知る由もないし、気にも留めない。
でも、「富山での地方創生を通じて、富山だけではない地方や日本のことを考えよう!」と言うと人が集まるんですよ。富山はあくまでも実験場。あえてその実験内容を公開することで、たくさんの人や知恵が集まるんです。
次に必要なのは、みんなで「悪ノリ」を創発していくことですね。発信を通じて、地方創生を本気でやる仲間や会社が集まってきているので、各々の意見を大事にして、行動に移すことが大事です。
理想論だけではまったく意味がないから、みんなで「悪ノリ」でいたずらをするような気持ちでいろいろ試すことで、地域社会の在り方がどんどん変わっていくと思っています。
その「悪ノリ」の一つかもしれませんが…実は私、野望があって。各地にヘリポートを作りたいんですよね。
へ…ヘリポート!?
そう。日本の交通網は、東京から地方に行く路線は新幹線も飛行機もたくさんある一方で、地方から地方へのルートはないんです。地方が栄えない理由を考えたときに、地方間移動をいかにスムーズにするかがすごく重要だと考えています。
特に成功した起業家や経営者の方には、「週末にヘリコプターで地方に行く」みたいなお金と時間の使い方をしてもらえるといいですね。「ちょっと地方までヘリを飛ばして、自然を楽しんだり、おいしいごはんを食べたりすることがイケてる」と思ってもらえるようにしたいなぁ。
それはワクワクしますね…! これから何が起きるのか、自分に何ができるのか、とても楽しみです。本日はありがとうございました!
藤野さんについてもっと知りたい方はこちら!
Facebook:https://www.facebook.com/hideto.fujino
書籍一覧:https://hifumi.rheos.jp/information/book/
YouTubeチャンネル「お金のまなびば!」:https://www.youtube.com/channel/UCVx4SuP1joFQXoqK5JFUmsg
取材=石原 たいぞー(富山人材新聞編集長)(@taizojp)
文章=高尾 有沙(@arisa_takao)
編集=いしかわ ゆき(@milkprincess17)
撮影=山下 貴久(Facebook)