皆さんは富山と聞いてどんな印象を持つでしょうか? おいしい魚、寒い気候、温泉、スキー場…?
今回は、そんな富山で10年以上、12軒ものシェアハウスを営む、ちょっぴりファンキーで頼れるお兄さんな合同会社シェアライフ富山社長、姫野 泰尚さんにお話を聞きました!
富山に住んでみたい、シェアハウスが気になる方はぜひ読んでみてください。
姫野 泰尚(合同会社シェアライフ富山社長) 富山市出身。大学入学以降12年間、滋賀・長野・オーストラリア・富山で2014年に結婚するまでずっとシェアハウス(ルームシェア)暮らし。オーストラリアから帰国後は地元の不動産会社へ就職する傍ら、独自に県内初のシェアハウスをオープン。富山で毎年1軒ずつ新しいシェアハウスをオープン。2014年1月、『合同会社シェアライフ富山』を設立。 |
富山初のシェアハウスを開いた理由は「自分が住みたかったから」
自分自身が姫野さんの運営するシェアハウスに1年半住んでいたこともあり、本日はお聞きしたいことがたくさんあります。 まずは姫野さんが富山でシェアハウスを開いたきっかけから教えてもらえますか?
実は僕、今までひとり暮らしを経験したことがないんです…(笑)。大学時代も同じ大学に通っていた兄と2人暮らしだったし、新卒で入った会社でも借り上げ寮での3人暮らし。その後訪れたオーストラリアでは2年間シェアハウスで暮らしてました。
オーストラリアからUターンで富山に戻ってきてからは不動産屋になったんだけど、不動産屋という職業柄、仕事に就いてすぐ、空き家相談が来たんです。そのなかで「豪邸が空き家になるからなんとかしてくれ」という相談があって。現場を見に行ったら、「あれ?これシェアハウス向きの家じゃん!」とピンときたのが、きっかけといえばきっかけですね。
オーストラリアでの経験が蘇ってきたわけですね!
そうそう、そのときは実家で暮らしていて、「実家から出てシェアハウスに住みたいな」と思っていたけど当時富山にシェアハウスはなかったので、一人暮らしをするか迷ってたタイミングだったので、「じゃあこれを借りて自分でシェアハウスを作ろう!」と思ったんです。
でも、最初はシェアハウスに対して認知がないから、なかなか大変でした。老人向けの「ケアハウス」と勘違いされたり、若者が集団生活、ということで風紀を心配されたり。今でこそ、シェアハウスを知っている人も増えてきましたが…。
なるほど。まだシェアハウス文化が浸透していないなかでのスタートだったんですね。
現在は何棟くらい管理してるんですか?
今は12軒を管理していて、シェアハウスにはのべ52人が入居しています。累計シェアメイトの人数は延べ200人以上。濃淡はありつつも、さまざまな人生を見てきました。
それ以外にも、ベトナム人の実習生が20名近くと、貸家の入居者の案内なども含めると90人程度と関わっていることになりますね。
すごい。
シェアハウスって個性的な人が入居している印象なのですが、実際にはどんな人がシェアハウスに住んでいるんですか?
今も昔も、大学生比率は10%以下で、年齢は上めの人から若い人までいます。昔と違うのは、フリーランスの人が増えたこと。10年前は勤め人かアルバイターが多く、転勤族の人もちょこっといたけれど、フリーランスの人はいなかったんです。
今はPC1台で稼げる人が増えたからなのか、フリーランス比率は、問い合わせでも聞かれるようになりました。仲間がほしいというのもあるかもしれません。
入居者の属性が変わったんですね。
特に、都会から地方に引っ越してきて、仕事をしながらゆっくり生活したいという人からの相談が増えましたね。フリーランスでなくても、勤めながらリモートで働く人も多いです。
冬の間の通勤が辛いからという理由で、雪が多いときだけ会社に近いシェアハウスに住みたい、という人もいる。結局雪が溶けてからも住み続けるシェアメイトも少なくないです(笑)。
その人の雰囲気に合わせた拠点を紹介する。シェアハウスの醍醐味は?
ちなみに、入居する人の審査とかってあるんですか?
審査する、という感じではないけど、僕は必ず面談をするようにしています。「初期費用や家賃をできる限り抑えたいだけなので、コミュニケーションには特に興味ないです」という問い合わせもたまにあります。
そういう問い合わせのときには、「シェアメイトたちとのコミュニケーションを必ずいつも取らなければいけないわけではないし、必ずリビングでワイワイしてね、ということでもない。ただ、たった一つでもいいから、共同生活のなかに自分の身を置くことに対して、自分なりの意義や期待を持って入居してほしい」と伝えています。
これは全員に必ず伝えるようにしていて。たとえば、「一人暮らしが寂しいから」だけでも全然いいんです。
シェアハウスって、陽キャやパリピ(明るい人、パーティーが好きな人)が入居するイメージがあるのですが、実際はそうでもないんですね。
そんなこともないんですよね。
たとえば、基本的には自分の部屋が好きなシェアメイトたちもいるけど、彼らは「『ただいま、おかえり』のあいさつだけでも、リビングから他のシェアメイトたちの話し声が聞こえてくるだけでも、安心感が得られるんです」って話をしてくれて。それはそれで素敵な生活だなと思っています。
人によってシェアハウスの意味合いはさまざまなんですね。
あの子はこれくらいの距離感が一番心地よいんだろうな、というのを時間が経つにつれてみんな理解できるようになるので、大切にしている価値観を互いに尊重しながら共同生活をしてもらっています。
その人に合いそうな価値観や雰囲気の場所を紹介したいから、希望とは逆に職場に一番遠いところを提案することも全然ありますね。
そこまでこだわって紹介をしているんですね…! そんなシェアハウスに住むことのメリットって、何だと思いますか?
シェアハウスでしか出会えない仲間がいるのは、シェアハウスの面白いところだと思います! シェアハウスには、好きなことをして生きている人が多くいたりするから。自分には興味のないことを仕事や趣味にしている人といきなり一緒に暮らすこともあります。
たとえばプロのジャズピアニストの方が入居していたら、家に帰ったらシアタールームでセッションしてたり、それによってジャズバーとかに行くタイプでなかったような子が、音楽に関心を持って行くようになったりしますね。シェアハウスに住むと自分の興味範囲以外にも興味を持てる可能性が広がる。これはシェアハウスの醍醐味です。そして、初めて出会う感性に触れてその後の人生も変わる可能性がある、本当に素敵な生活だと思います。
あとは「第二の実家」ができることですね。シェアハウスではよくイベントをやるんだけど、毎年一番盛り上がるのは、5,6年前に始まった年末の年越しそば会。地元でもないのに、元入居者が帰ってくることが一番多いのもこのシーズン。
年末はゲストハウス縁でシェアハウスに残ったメンバーで年を越すのが定番になっていますね。
最初は帰省する場所や予定のないシェアメイトが、各シェアハウスで一人寂しい年越しをすることがないように、大晦日に1箇所のシェアハウスに集まって5人くらいで年越しをしていました。
それが、年を追うごとに次第に人数が増えていき、逆にここで過ごすことを目的にみんなが帰ってきてくれるようになって。すでに卒業した元シェアメイトも毎年誰かしら戻ってきてくれるから、ありがたいし、嬉しいなと思っています。
まさに「第二の実家」ですね。
本当に実家感はあると思います。年末は観たい番組がそれぞれ違うからって言って、昨年はテレビを4台も設置して臨みました。(笑)。
『笑ってはいけない』『紅白』『格闘技』『ジャニーズ』で、それぞれが観たいのを観て、みんなでお酒を飲んで…。翌朝、年越しそばの残りの出汁で作ったお雑煮をみんなで食べて解散するんです。
「ホームレス、プー太郎、だめっち」…シェアメイトを変えた『環境』
ちょっと話は変わりますが、シェアハウスを経営してきてびっくりしたことはありますか?
印象的なシェアメイトたちは何人かいましたね。
たとえば、10ヶ月以上家賃を滞納していた子。うちに住み始めたころは、もともと家がなかったのもあり、仕事もしていなくて毎日パチンコしてるような、正直、いわゆるダメ人間でした。
「だめっち」とか言われていたんだけど、性格なども含めて悪い人ではなかったし、滞納中もコミュニケーションは取れていたので、正直、退去してもらうか迷っていたこともあって…。
それだけ滞納していても追い出さなかったんですね。その後どうなったんですか?
滞納額が50万円くらいになってきたころ、ある日突然、僕に対して「このままじゃ自分はダメになると思うんで、毎月1.5万多く払って2.5年で完済します」と宣言してきたんです。
それからいきなり真面目になって、働きはじめて…。その結果、どのシェアメイトよりも働き者になって、3つも仕事を掛け持ちして、誰よりも早く家を出て、遅く家に帰ってくるような生活になったんです。
それからは、1日でも遅れそうになったら電話してきて、シェアライフ富山の会社に頭まで下げに来るようになりました(そこまでしなくてもいいんだけど…笑)。生まれ変わったようだったのが印象的で。結局、宣言通り2年半で完済したんですが、そのころには全シェアメイトの人望を完全に獲得していました(笑)。
そんなことが…
完全に因果があるとは言えないけど、シェアハウスの人間関係から生まれた変化のようにも思えましたね。シェアハウスを通じて、人とコミュニケーションを取りながら、人との付き合いを大事にするようになってくれたのも大きいと思います。
よく気がつくし、シェアハウスでイベントをするときには自分が一番働くし、食べ物や飲み物を持ってくるし、みんなから好かれていて。26歳くらいで入居して、きちんと完済して、32歳で退去してからも、東京で飲食店の店長を任されたり、うまくやっているようで本当に良かった。彼もまた毎年年末には帰ってきてくれて、みんなと一緒に年越しするかけがえのない仲間です。いつか一緒に仕事が出来たらいいな、なんていつも思ってます。
普通の大家さんなら追い出してしまいそうなところを、信じて待って、いつか仕事をしたいと思えるって、なかなかできることではないですよね。姫野さんにとって、ビジネスと日常の境目というのはあるんですか?
僕は、プライベートとビジネスの境目は薄いほうですね。
もちろん、家賃を払わないのは良くないことで、滞納を認め続けることはしないし、事業的にはドライに捉えていると思う。ただ、普通の賃貸物件とシェアハウスは、マネタイズとシェアハウス全体の運用に違いがあると思っています。
と言うと…?
賃貸なら、家賃を払わないのに住まわれるのはリスクでしかないので早く追い払ったほうが良い。それは当然です。
でも、たとえばシェアハウスで10部屋のうちに5部屋しか入居していなくても、シェアハウス内の風通しを良くしてくれたり、うまくまわりのシェアメイトとコミュニケーションを取って生活できる人がいれば、滞納していてもシェアハウス自体のコミュニティ維持に必要な人だったりもします。変な話、「追い出して家が寂しくなるより、いっそ居てくれたほうがいい」ということもあったりします。
逆に言えば、滞納に関しては、最低限のコミュニケーションすら取れなくなったら難しいと思っています。コミュニケーションが取れるのであれば、事情があって払えない期間があっても、一緒に返済計画を相談したりできますし。
ちなみに、たいぞー(インタビュアー)もいつも滞納気味だったよね。たいぞーの場合は単にズボラなだけだけど(笑)。
自分たちの作った場所によって、人生が変わったと感じる人が生まれたのなら
僕自身、以前シェアハウスに住んでいましたが、退去してからも、年末年始はここに戻ってこれたりと、まさに「居場所」だと思っています。ここは「富山に移住する人がハッピーになれる環境」だと思ったのですが、移住や関係人口の増加に対して、姫野さん自身、何か想いがありますか?
すごく正直な話、僕は富山に移住者を増やすために仕事をしているわけではありません。僕はシェアハウスとゲストハウスをやっているけど、どちらも、空き家相談に対する一つの答えでしかないと思っていて、外からの人を招きたい、という想いから始めたものではなかったんです。
自分の会社の事業の軸としては、観光業者ではなく不動産屋でありたいという想いがあります。もちろん、今の仕事が結果的に移住促進に繋がっているのはありがたいことですが、観光や移住を盛り上げたいからやっているのではなくて。不動産屋として、頼ってくれるお客さんたちに対して、それぞれ自分たちの居場所としての住居を提供できたり、空き家に困っている大家さんにベストな選択肢を見つけてあげたい、という気持ちが一番大きいですね。
もちろん、手段の幅を広げることは良いことだと思っています。僕たちだったら、自宅に思い入れが強くて、売り払いたくも貸したくもない大家さんがいたら、期間限定や部分限定賃貸のような新しい提案もできます。民泊にして「完全には手放さない」という選択肢を与えてあげることができるので。これが不動産屋としての強みにもなっていると思いますね。
なるほど。観光や移住というよりは、「住居」を介した、大家さんや入居者が主役なんですね。
結果として富山に移住してくれるのは嬉しいですが、僕はどちらかというと「一人ひとりの人生が良くなること」を一緒に感じたいと思っています。「シェアハウスでの出会いや生活の転機などを通じて、自分たちの作った場所によって人生が変わった」と言われるのは、やっぱり幸せです。
ありがとうございます。最後に、これからどんな人にシェアハウスに入居してほしいですか?
即座に勧めたい人は、一度も実家を出たことがない人ですね。 何もシェアハウスでなくてもいい、一人暮らしでもいいから、1回実家を出てみてほしいなと思います。特に富山では、実家を出る人の割合は東京などに比べてとても少なくて、結婚するまで実家暮らしの人が圧倒的に多いというデータもあります。
でも、実家を出ることで、家のことは大抵何でもできる、と自信を持てる状態になるのは生きていくうえで大事だと思うんです。それだけではなく、学生のときに社会人とのつながりができていたり、共同生活をしていたりすることで、人との距離感や心地よさに対する感度が高くなるから、生きやすくなると思います。
コミュニケーション…ということですか?
はい。シェアハウスはまさに「社会の縮図」だと思います。多様な人との付き合いを経験している人は、社会の一員として、自分の立ち位置、他人への尊重などを含む「生活を楽しめる価値観」が醸成されるんじゃないかと思っています。
ちなみに、事業として今後の展望はありますか?
僕たちの会社は「全世代、全世帯の『孤独』と向き合い『繋がり』を楽しむ。人生に第二の家族を」という経営理念を掲げていて、実はこれから「多世代型シェアハウス」を作ろうと思っています。
多くの人は、同年代や似たようなカテゴリで固まりがち。でも、同質であることはいいことばかりを生み出さないと思っています。その点、子どもが走りまわる空間は、それだけでいろんな人にいい影響があると思っていて、そういう空間を作りたいんです。
先週末、カレー芋煮の炊き出しをしたのだけど、そのときに声をかけてくださった雪山スポーツをかなり本格的にやっている親子がいて。その親子は来年の4月からお母さんとお子さん2人で住むことになりそうなんです。
えっ、ご家族で!
そう。お子さんが来年を「勝負の年」と位置付けて、富山を拠点にしてTATEYAMA KINGSで滑りたいから、とのこと。僕たちは「家族でも入れる」シェアハウスを目指しているんだよね。それが『コレクティブハウス』という文化です。
『コレクティブハウス』って何ですか?
同じ建物内(集合住宅)に住む複数の家庭が、共用部のキッチンやリビングを利用して大きな家族を形成し生活を送る、スウェーデン発祥の文化です。つまり、みんなで子どもを育てたり、そこでまた新しい家族や家を作っていくということ。隣人との付き合いが気軽で濃密だった昔の日本の町内会のようですよね。
自分の場合、結婚を機にシェアハウスを出ましたが、将来的には、ライフフェーズが入れ替わっても家族で住めるシェアハウスがほしいなと思っているので、今から楽しみにしています。
まさに未来型の家族のあり方ですね…!
僕の結婚前に一緒にシェアハウスを盛り上げてくれたシェアメイトたちも、結婚して子どもができたり、子どもたちも同い年だったりして、あのころ生活を共にしたシェアメイトたちが今は子育て仲間だったりします。これからもシェアハウスでの出会いが一生の絆になったら、こんな嬉しいことはないですね。
現在進行系で生まれるシェアハウスの絆、本当に素敵で大切なものだと思います。これからの発展にも期待しています。ありがとうございました!
【お知らせ】とやま移住応援団リリース決定!
富山県より移住前後に役立つ制度として、【とやま移住応援団】をご利用いただくことが出来ます。富山への移住を検討している方、ぜひご利用下さい!
取材、写真撮影=石原 たいぞー(富山人材新聞編集長)(@taizojp)
文章=高尾 有沙(@arisa_takao)
編集=いしかわ ゆき(@milkprincess17)