起業家に聞く!

富山の老舗企業は、なぜ東京のITベンチャーとタッグを組んだ? 90年続く内装会社の“技術を守る”未来戦略

起業家に聞く!

富山県で働いている、あるいはいつかは働きたい方に向けて、最前線で活躍するリーダーや注目企業、注目の人を紹介し、富山での新しい働き方を提案する『富山人材新聞』。

今回登場するのは、富山県を本社に構える空間ディスプレイ企業、株式会社宝来社代表の荒井洋平さんと、東京を拠点に建設業のDX化に関するサービスを手がける、クラフトバンク株式会社代表の韓英志さんです。

宝来社は、北陸エリアにおいて90年を超える歴史のある老舗企業として、さまざまな建物や空間の内装を手掛けてきました。現在は、地元で培ってきた強固な繋がりと、クラフトバンクが持つIT技術を掛け合わせ、現場事務作業のDX化を図っているそう。

今回は、そんな富山の老舗企業が東京のITベンチャーと協業に至った背景と、その先に描く企業の展望について迫ります。

〈聞き手=石原たいぞー(富山人材新聞編集長)〉

株式会社宝来社 代表取締役社長 荒井洋平さん(右)のプロフィール
1982年生まれ。都内のインテリア設計事務所で経験を重ねたのち、2013年に地元富山へUターン。2019年に株式会社宝来社代表取締役社長に就任。
クラフトバンク株式会社 代表取締役社長 韓英志さん(左)のプロフィール
東京大学大学院建築学専攻を修了後、株式会社リクルートにてグローバル事業責任者を経て欧州スタートアップの代表を経験。帰国後は内装工事会社の代表として、建設業のデジタル経営を実行。2021年4月にクラフトバンクを創業。

富山の内装会社×東京のITベンチャー。「協業」から生まれる新しい価値とは?

たいぞー
たいぞー

宝来社さんとクラフトバンクさん。まずは、それぞれの事業についてお聞きしてもいいですか?

荒井さん
荒井さん

宝来社は、展示会の設営や看板制作、オフィスや店舗の内装の設計施工を行っている「ディスプレイ業」の会社です。

1928年に創業してから90年余り、北陸エリアを中心に専門工事業社と連携してさまざまな工事を行っています。最初は看板屋としてスタートしましたが、時代の変化に合わせて、展示会の工作物や店舗の内装などを手がけるようになりました。

私は4代目の社長で、就任して3年目…いや、4年目です(笑)。

歴史が長すぎる
韓さん
韓さん

クラフトバンクの事業内容を一言でいうと「建設企業のデジタル化支援」です。

簡単に説明すると、宝来社さんのような元請工事会社さんと、大工さんや給排水業者などの専門工事会社をマッチングさせる事業を展開しています。

他にも、専門工事会社の現場外業務を削減するITサービスを作っていて、今回宝来社さんとご一緒しているのは後者の事業です。

たいぞー
たいぞー

「現場外業務を削減するITサービス」…? 

荒井さん
荒井さん

実は建設業は、民間工事だけでも32兆円の市場規模を誇る日本の一大産業なのですが、仕事の進め方はまだまだアナログで…。

内装工事業も建設業の一部なのですが、とくに私たちの協力会社にあたる、大工さんや給排水業者といった専門工事会社の「現場外業務」がとても多いんです。

たいぞー
たいぞー

「現場外業務」にはどんなものがあるんですか?

荒井さん
荒井さん

日報を書いたり、工事日程を調整したり…。

韓さん
韓さん

見積もりをFAXで送ったり…ね(笑)。

ふぁ…FAX⁉︎
荒井さん
荒井さん

とくに地方の専門工事会社は、40〜60代が中心となっている会社が多いので、業務そのものがアナログで非効率なことも多々あるんです。

韓さん
韓さん

これはマッチング事業を祖業として展開してきて、その中で見えてきた新たな課題でした。

専門工事会社の働き方を知るために、職人さんにたくさんインタビューをしたのですが、職人さんの業務のうち、事務作業に3割、それに加えて、移動や待機に2割の労働時間に使われていました。

つまり、労働時間の半分は現場以外の業務に使われているんです。

たいぞー
たいぞー

モノづくりが仕事なのに…!

韓さん
韓さん

専門工事業社の事務作業をゼロにできれば、その分の時間が増えますよね。


職人さんの対応可能な工事のキャパシティが増えて、効率よくたくさん稼げるようになります。それが、私たちの狙いのひとつなんです。

荒井さん
荒井さん

そんなクラフトバンクさんが手がけている「現場外業務を削減するITサービス」を、私たち宝来社が北陸エリアの専門工事会社に広めていくお手伝いをしています。

なぜ、専門工事会社向けのITサービスを販売? 建設業の課題に対する真摯な取り組み

たいぞー
たいぞー

でも、どうして「協業」に至ったんですか? 専門工事会社向けのサービスであれば、元請会社である宝来社さんにはあまり関係ないのでは…?

荒井さん
荒井さん

たしかに、このITサービスは私たちの業務を直接的に改善するサービスではありません。でも元請である私たちだからこそ、取り組む価値が十分にあると思っています。

たいぞー
たいぞー

それはどうして…?

荒井さん
荒井さん

実は、この協業に至った背景には、建設業の課題が関係しているんです。


現在、建設業では職人さんの高齢化」が問題視されています。現役の方々が年を重ねている一方で、若い年代の就業率は年々減少傾向。中には人手不足や年齢を理由に廃業する専門工事会社もあるんです。

そうなんだ…。
韓さん
韓さん

富山だけで見ても、ここ10年3割くらいの職人さんが減っているんですよね。

たいぞー
たいぞー

そんなに減っているんですか…。

韓さん
韓さん

そうなんです。もちろん先ほど話したように「一部業務をデジタル化して生産性を向上する」という目的もあるのですが、それ以上に若い働き手を増やすためにも建設業のDX化は必要だと思っています。


デジタルネイティブ世代にあった働き方が専門工事会社にも浸透すれば、若い年代が働きやすい環境を整えることができます。

たいぞー
たいぞー

なるほど。ですが、宝来社さんは内装工事会社ですよね? このようなセールスマーケティングのご経験は…?

荒井さん
荒井さん

ありません(笑)。私たちは内装工事会社なので、「ITサービスを売ってくれ」と言われても、対応できる人はそんなにいないんですよ。

でも最近、営業経験のあるスタッフが入社してくれて、今まさに模索している最中です。

たいぞー
たいぞー

でも地方企業のDX化って、正直大変なのでは?

荒井さん
荒井さん

最初は無理だと思っていました(笑)。建設業やディスプレイ業は歴史のある仕事なので、従来のやり方で業務を行う会社が多いんです。

でも、2022年3月にこの取り組みを始めて、今では6社の専門工事会社でデジタル化の支援を始めています。建設業の就業者数が減ってきていている今だからこそ、従来のやり方を見直すいい機会なんです。

韓さん
韓さん

でも実はこれ、宝来社さんが窓口だから上手く進んでいるんですよね。

たいぞー
たいぞー

と言いますと?

韓さん
韓さん

建設業界は、その仕事柄「地域性」がとても大切なんです。

建設業ってそもそも、その地域に住む人たちの暮らしをよくするサービスじゃないですか。

私は以前、内装会社を経営していたことがあるのでわかるのですが、東京の企業が偉そうなことを言っても、結局のところ地元の企業が解決してくれるんですよね。


それに、クラフトバンクは東京のITベンチャーなので、地方都市の専門工事会社との接点はあまり多くはありません。

韓さん
韓さん

その点、宝来社さんは北陸エリアで90年を超える老舗企業なので、地域の専門工事会社とも数百社ほどの接点があります。


私たちが直接窓口になるよりも、長年地域に根差してきた宝来社さんに旗を振っていただいた方がサービスが広まりやすくなりますし、その結果、地域の建設業がさらに魅力的になっていくと私たちは思っています。

たいぞー
たいぞー

なるほど。まさにそれぞれの強みを活かした布陣なんですね。

荒井さん
荒井さん

そうですね。逆にいうと、私たちはDX化を図るITサービスは作れないので、お互いの長所を掛け合わせて生まれた取り組みなんです。

富山からITベンチャーに出向⁉︎ 協業から生まれた「ハイブリットな働き方」

たいぞー
たいぞー

宝来社さんがクラフトバンクさんと協業をするにあたって「働き方の違い」を感じることはありますか?

韓さん
韓さん

この質問、怖いな…。

たぶん、「狂っている」と思われているんじゃないかな(笑)。

そうなの…⁉︎
荒井さん
荒井さん

そんなことはないですよ(笑)。ただ、プロジェクトを進めるスピードが速すぎて、「半年後はもう別の会社になっているのでは…⁉︎」という印象はありました。

建設会社やディスプレイ会社の仕事って、プロジェクトの期間がそもそも長いんですよね。なので、半年や1年でそんなに変化がないこともあります。

その一方で、クラフトバンクさんは、3ヶ月先、半年先、1年先のビジョンを細かく設定しているので参考になりますね。

生々しい話、直近の実績や将来の事業計画を見ても「そんな成長の仕方ある⁉︎」と驚かされていますよ(笑)。

荒井さん
荒井さん

あと現在、宝来社の社員2名クラフトバンクさんに出向中なので、細かい業務についてはいろいろと勉強させてもらっています。

たいぞー
たいぞー

え!富山の内装会社から東京のITベンチャーに…出向⁉︎

韓さん
韓さん

「創業90年の老舗企業」と聞くと、一見お堅く感じるじゃないですか?でも、宝来社さんにはIT部門があるんですよ!

荒井さん
荒井さん

他の会社では…ないでしょうね(笑)。


ただ、私たちにはまだ、ITに関する知識が不足しているのが現状です。自社でできることを増やしていくためにも、クラフトバンクさんからさまざまなことを学ばせてもらっています。

たいぞー
たいぞー

でも、内装工事とITはまったく異なる業務ですよね?

荒井さん
荒井さん

そうですね。施工管理職なのに、なぜかITサービスの販売を担当している人もいます(笑)。

斬新なジョブローテーション!
韓さん
韓さん

とても面白いですよね!この取り組みは、企業だけでなく従業員にとっても大きなメリットだと思うんです。


地方で働いている方の多くは、その地域が好きな方が多いと思いますが、その一方で「東京で働いてみたいけど、事情があって実現が難しい」という方もいると思うんです。それに地方都市にいると、なかなか情報が入ってこないこともあります。

宝来社さんにいながら東京のITベンチャーで経験を積み、将来宝来社さんに戻ってその経験を活かし、事業を通して地元企業の発展に貢献する。そう考えると、とても素敵なキャリアになりますよね。

たいぞー
たいぞー

たしかに、視野が広がるきっかけになりそうですね。

韓さん
韓さん

そうなんです。今回の取り組みは、地方の企業同士がお互いの絆で取り組んでいるわけでもないし、東京のベンチャー同士がウェイウェイやっているわけでもない(笑)。


「地方の老舗企業」と「東京のITベンチャー」という異質なものを掛け合わせたことで生まれた、ハイブリットな働き方だと思います。

荒井さん
荒井さん

それに、地方に長くいると、どうしても情報が少なくて視野が狭まるので、クラフトバンクさんから刺激をもらいながら成長していきたいですね。

たいぞー
たいぞー

なるほど…ありがとうございます! そんな画期的な取り組みを行っている宝来社さんですが、最後に今後の展望をお聞かせいただけますか?

荒井さん
荒井さん

実は「これをやっていくぞ!」みたいなのはないんですよね…。強いていうなら「継続」かな。

どうしよう、答えになっていないですね(笑)。

あれ、インタビュー終盤で雲行きが怪しいぞ…?
韓さん
韓さん

僕個人の感想ですけど、荒井さんは「目標はない」と言いつつ、会社としては先進的で斬新な手を打ちまくっているんですよね! 時代を漂流している感じ(笑)。


いい意味で、こだわりがなくフラットに物事を捉えているように感じています。だから、今回の取り組みも実現できているんですよね。

荒井さん
荒井さん

それはありますね(笑)。

時代は少しずつ変わっているので、従来の考えや手法に固執しないで、積極的に挑戦することは大切にしています。

その挑戦こそが「どう継続していくか」の答えに繋がるんですよね。

宝来社には90年という歴史があり、先代の方から積み上げられてきたものを継承しています。でも、それ以上に大切なのは、今いる人たちだと思うんです。

クラフトバンクさんとの協業も同じですが、現在働いている人たちや若い人たちに目を向けて、今の時代に合った最適な環境を模索していきます。

建設業のDX化に興味ある人を募集中!

株式会社宝来社およびクラフトバンク株式会社では、建設業のデジタル化支援を盛り上げてくれるスタッフを募集中です。

詳しくは、各企業の採用ページをご確認ください。

株式会社宝来社
▼新卒採用
https://job.rikunabi.com/2024/company/r496742004/
▼中途採用
https://en-gage.net/horaisha_jobs/

クラフトバンク株式会社
▼採用
https://www.wantedly.com/companies/craftbank

取材=石原 たいぞー(富山人材新聞編集長)(@taizojp)
文章=まあや(@maaya_minimal)
編集=いしかわ ゆき(@milkprincess17

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