「地方創生」。
人口が都市部に集まる傾向にあるなか、それはどの地域にとっても大きな課題です。でも、インスタ映えするようなおしゃれスポットも、世界遺産に登録されているような立派な文化財もない…。そんな地域はどのようにして人を集めていけばいいの?
今回お話を聞いたのは、NEWPEACEの高木新平さん。
富山の小さな港町・新湊で育ち、大学入学を機に上京。博報堂を経て、現在はビジョン起点でコミュニティを拡げる「VISIONING®︎」を提唱・実践する起業家として活動されています。
2020年、全国3番目の感染率となった富山のためにクラウドファンディング「#まもろう富山」を立ち上げたことをきっかけに、富山県成長戦略会議への参画を始め、県内全15市町村を知事とともに巡り、ビジョンについて考えるワークショップ「ビジョンセッション」や、カンファレンス「しあわせる。富山」の開催などに携わってきた高木さん。
「ビジョンセッション」には全15市町村で300名超が参加し、「しあわせる。富山」では県内外から60名を超える登壇者を迎え、参加者は会場・オンライン含め1600名を超えるなど、早くも成果が見られています。
高木さんが思う、地方創生を成功に導く鍵とは何なのか。じっくりとお話を伺いました!
〈聞き手=石原たいぞー(富山人材新聞編集長)〉
高木新平 NEWPEACE Inc.CEO。1987年富山県生まれ、早稲田大学卒業。 博報堂を1年で辞め、全国各地にシェアハウスを展開・ブームを牽引。 2014年「誰もがビジョンを実践できる世界をつくる」を掲げ、 NEWPEACEを創業。従来のブランディングに対し、未来の価値観を波及していく「ビジョニング」を提唱。数多くのスタートアップのビジョン開発・市場創出に携わる。また自社においてジェンダーやコミュニティなどの21世紀の主題を事業展開。緑髪3児のパパ。 |
富山でいま、「世界の人を魅了できるもの」が生まれている!
高木さんは現在積極的に地元・富山に関わるお仕事をされていますが、もともと富山のことはどう思っていましたか?
他聞に漏れず「つまんない場所だなぁ」と思っていました(笑)。
特に思春期からは、雑誌やネットで情報を得ていくなかで、富山よりも東京や大阪に行ったほうが楽しそうだと強く思うようになりましたね。だから正直、自分から積極的に富山に関わるつもりはあまりなかったんです。
えっ、そうなんですか!
地方って、すでに世界ができあがっているんですよ。中途半端に首を突っ込んでも相手をされないし、年功序列的に配置されるだけ。だから、もっと歳を重ねてから関わろうと考えていました。
でも、そこにコロナ禍で富山が全国3番目の感染率となったニュースが飛び込んできた。
さらに、高校の先輩であるラクスルのCEOの松本さんと、freeeのCMOの川西さんとお話する機会もあり、共同でクラウドファンディング「#まもろう富山」を立ち上げることになったんです。
それをきっかけにして、どんどん富山県に関わるようになっていきましたね。
「#まもろう富山」では富山出身である立川 志の輔さんや柴田理恵さんが支援を呼びかけたことでも話題となりました。
実際に富山に関わるようになって再認識したことはありますか?
純粋に「面白い!」と思いました。
たとえば、富山の地酒「満寿泉」を作っている「桝田酒造店」5代目当主の桝田隆一郎さんは、空き家に職人を住まわせたり、全国トップレベルの料亭を引っ張ってきたりと、まちづくりを進めています。
ほかにも、ふるさとの魅力発信を通じて地方再生に取り組む団体「みらいまちラボ」、富山県氷見市のワイナリー「SAYS FARM」など、面白い人を辿っていくことで面白い人にたくさん出会えたんですよ。
今、富山では「東京の下位互換」じゃなくて、東京にない「世界の人を魅了できるもの」が生まれてる。「知らぬ間にこんなことが起きてたんだ!」と感動しましたね。
そんな動きが…!
さらに、行政が変わろうとしているのもすごくいい。
僕が富山県成長戦略会議への参画や、カンファレンス「しあわせる。富山」開催に関わるようになったのは、行政から「情報発信やブランディングで関わってほしい」と相談をいただいたことが始まりでした。
もともと富山は工業が盛んな場所なので、「BtoB」でやってきました。そのため、「CtoC」のコミュニケーションがあまり上手ではない。それを理解したうえで、大きく変わろうとしているのが今の富山なんです。
「新しい価値を生むクリエイター」が地方創生の要
富山の場合は運良くクリエイターが移り住んでくれたり、高木さんのような方がブランディングに携わっていたりと、いい循環が生まれているように感じます。
一方で、地方創生にゼロから着手していく場合は、どのように進めていけばいいんですかね?
まず、地方創生の大きなネックは、地元の人が「その土地の良さ」に気付いていないこと。「観光に来る側」の視点を持っていないんです。
たとえば、北海道では昔、規格外の蟹を捨てていたそうですが、それを大阪の商人が「ワケあり蟹」として売ったらバカ売れしたという逸話があります。
えぇ、もったいない…!
僕も正直、地元・内川のことを「ただの古びた漁港街」としか思っていませんでした。
でも、まちづくりコーディネーターの明石博之さんが内川にやってきて、古民家のオーガニックカフェ『cafe uchikawa 六角堂』をオープンさせてから、内川のイメージが変わりはじめました。
外からクリエイターが来れば、その地方の魅力を外部目線で再定義して、新しいものを創造する。
新しいものを創造すれば、またそれに惹かれてクリエイターがやってくる。つまり、「新しい価値を生む人」にいかに地方に訪れてもらうかが、地方創生の要なんです。
クリエイターがクリエイターを呼ぶ循環を起こしていくんですね。詳しく教えてください!
その土地“ならでは”の魅力を発見するためには?
まず、大切なのが“ならでは”の魅力を発信することです。
地方では「観光」や「魅力スポット」ばかりを推すことが多いけど、ズバリ、観光は「THE歴史文化」のあるところが勝つゲーム。有名な建築物やスポットなどがない場合は、その地方“ならでは”の勝ち筋を見出す必要があります。
たとえば、ミシュラン一ツ星シェフ・谷口英司さんがオープンした富山県南砺市のレストラン「L’évo(レヴォ)」 は、谷口さんが地元の「赤カブ」に惚れ込んだところから始まりました。
でも、まさか地元の人は日常的に食べている「赤カブ」がそこまで魅力的なものだとは夢にも思いませんよね。
た、たしかに…。
地元の素材があるだけじゃダメ。一流のクリエイターが価値に変えなくちゃいけないんです。そんなクリエイターと地方の魅力が出会うためにできることは、「価値を見つけてもらう機会」を作ること。
たとえば、行政が自ら新しいことを仕掛けて人を呼び込むのもいいと思います。
富山では各市町村の住民とともに富山県の未来を考える「富山県成長戦略ビジョンセッション」や富山県成長戦略カンファレンス「しあわせる。富山」を開催しています。
「富山県成長戦略ビジョンセッション」は、富山県内全15市町村で実施して、300名以上の県民の方が参加してくださいました。
すごい大規模ですね…!
また、富山県成長戦略カンファレンス「しあわせる。富山」は、県内外から60名を超える登壇者を集め、トークセッションとあわせて体験型のツアーを組み、富山の魅力を体験してもらいました。
外の人を巻き込んで一緒に議論することで、新しい魅力を再発見することができるんです。ちなみに富山県成長戦略会議のメンバーは富山に縁のある人で構成されていますが、半分は外部に住んでいる人なんですよ。
なるほど。中と外、両方の人たちが必要なんですね。
そうそう。
あとは、その土地と似た地域のロールモデルを探して手法を真似してみるのも手ですね。その土地が持っている素地を変えるのは難しい。だからこそ、似たような性質を持っている場所を参考にしてみるんです。
たとえば、富山のロールモデルはデンマークのコペンハーゲンやフィンランド。豊かな自然に恵まれ、幸福度が高い国たちです。
特にデンマークでは、「観光の終焉」を宣言し、訪れる人々を観光客としてではなく一時的な住民として歓迎するブランディングが功を奏しています。
続いて、こちらの写真を見てください。
えっ! そっくり!
そうなんです。富山も豊かな自然とおいしい食に恵まれ、幸福度の高いライフスタイルを実現できる場所。
デンマークやフィンランドの成功を受けて、富山でも観光ではなく実際に暮らしを体験してもらい、時流でもある「ウェルビーイング」を価値として打ち出しています。
ただ、これも俯瞰した目線がないと気づけないこと。そのためにも外の目線を取り入れるというのは1番最初にやってほしいことです。
「何かやりたい!」と思わせる体験型コンテンツを仕掛ける
人が訪れるようなきっかけが作れたら、次は実際に魅力を味わえるように仕掛けていきます。
富山県成長戦略カンファレンス「しあわせる。富山」では、ホールでトークセッションを行うのではなく、各テーマごとにさまざまな地域に行きます。
錫のグッズ作り体験をしたり、ワインを飲んだり、街中を巡るバスツアーがあったりと、体験型のカンファレンスになっているんですよ。
カンファレンスと聞くといくつかのホールでセッションをしているイメージですが、それはなんだかワクワクしますね!
部屋にこもって議論をするのも必要ですが、魅力を感じてもらうには実際に体験してもらうのが1番。「うわぁ! ここで何かやりたいな!」と思ってもらうような場所や機会を作るんです。
「外部評価」でクリエイターが活躍しやすくなる環境を作る
実際に体験して価値を感じてくれた人が生まれたら、価値がわかる人の循環を作ることが必要です。
そのためにはプロダクトやサービスがきちんと評価されなければならない。実は、地方で大事なのは「外部評価」なんですよ。
外部評価?
建築家・山川智嗣さんが手掛けた、職人に弟子入りできる宿「BED AND CRAFT」は、できたばかりのころは地元の評判があまり良くありませんでした。
地元の人は、いきなりクリエイターが来ても警戒してしまうもの。それが、『婦人画報』に掲載された瞬間、評価が一変したそうです。
こうしたメディア露出に繋げるためにも、まずは行政が取り上げてフックアップしたり、きちんと評価することが必要ですね。
ほかにも、富山環水公園店が地元の人にも観光地として知られているのは「世界一美しいスタバ」という称号を手にしたからなんです。地元の人は判断軸を持ちえてない。だから、外部評価されていると安心するんです。
先ほど、「地元の人は地元の魅力がわからない」というお話がありましたが、そこに通ずるものがありますね。
でも、逆にこの掛け算がうまくできると、地元も誇らしくなって協力してくれやすくなる。この循環が生まれたらすごく強いんですよ。
文化は批評家がいないと文化に育たない。外部評価があることでクリエイターがプレイしやすくなり、それがまたクリエイターを呼び寄せることに繋がるんです。
「住まわせる」のではなく「何度も訪れてもらう」土地へ
とはいえ、クリエイターに興味を持ってもらっても、訪れるだけでおわってしまう可能性がありますよね。実際に移住に繋げるにはどうすればいいんですか?
あぁ…その考え自体が地方創生の落とし穴ですね。地方は居住人口にこだわります。でも、今の時代それはどれだけリアリティがあると思います?
面白いことをやりたい人ほど、多動的でいろんな場所に行くんじゃないかな。
はっ! そういえば高木さんも富山に移住はしてない…!
いきなり移住を勧めるのって、初めての出会いで「結婚してくれないともう会いません」と言っているようなものです(笑)。
「広報」と「観光」と「移住」は密接に繋がってるんです。僕は「広住観」と言っています。
広報をうまくやることで、新しい人がたちが訪れる。そこで、気に入ったら住んでくれるだろうけど、別に二拠点でもいいし、週に一度来るのでもいい。そこをなめらかにしていかないと人が離れちゃうと思うんですよ。
最初から結婚を迫ること、つまり移住をメインとした広報PRをすることで、実は深く関われる可能性を狭めているかもしれない。だから、移住人口よりも関係人口=カタリストを増やすことを意識したほうがいいと思います。
たしかに、移動の多い人のほうが伝播してくれる可能性が高いのかも…
地方は、どうしても自信がないから縛り付けようとする。だから出身者も戻りづらいんですよね。一度移住したら出てこれないんじゃないかと思っちゃう(笑)。
そうならないためにも、地方はその土地“ならでは”の強みを知り、自信を持って新しい人たちをウェルカムしていってほしいですね!
どんなに魅力的な素材や場所があったとしても、日々当たり前に目にしているとその良さには気付きにくいもの。
どうしても「何か魅力的なものを用意して、気に入ってもらわなければ…!」と構えてしまいますが、実際には「布教する」のではなく「出会ってもらう」のが自然な地方創生の在り方なのだと気付きました。
そういえば、この「富山人材新聞」を立ち上げた僕自身も、まったく富山出身ではなく、「カタリスト」のひとり。外にいる人間として、まわりの人たちが富山の魅力と出会える機会をもっと増やしていきたいので、少しでも興味のある方はぜひお声がけください!
取材=石原 たいぞー(富山人材新聞編集長)(@taizojp)
文章・編集=いしかわ ゆき(@milkprincess17)
デザイン=ゆーと(@yuto_higohashi)